線維腺腫は、乳腺の終末乳管小葉単位(ミルクが作られる場所、乳がんが発生するとされている場所)の上皮と間質が、エストロゲンの影響を受けて 過形成性に増生する良性の腫瘤性病変です。 最近では、間質細胞におけるエストロゲン受容体と相互作用するX染色体上のMED(mediator complex subunit)12遺伝子の変異が報告され、間質細胞主体の病変ともみられています。15-40歳の若年層によく認められ、枝豆に似たくりっとしたよく動く腫瘤として触れます。エストロゲン感受性の過形成性病変のため、多くは3cm位になると増大は止まり、閉経すると退縮していきます。
超音波診断では、典型的な境界明瞭な楕円形で扁平な腫瘤像だけでなく多彩な画像を呈するため、発生と経時的な変化を理解しておくことが大切です。終末乳管小葉単位がそのまま過形成性に増大して圧排発育するため境界は明瞭平滑ですが、形状は間質の増生程度によって楕円形から円形、分葉形を呈します。発生初期の間質は浮腫状で血流も多く柔らかいですが、時間経過とともに硝子化あるいは粗大石灰化が進み、血流は減少し硬くなります。カラードプラでは、境界部に圧排された血管がsurrounding marginal arteryとして観察されるのが特徴的です。病変の主体は間質の増生ですが、エストロゲン暴露の関係で、乳管上皮の増生は変化の少ないものから、乳管過形成、アポクリン化生、硬化性腺症を呈するものなど多彩です。ただし、癌が合併することは非常に稀です。
超音波診断をする上で鑑別が必要な悪性病変としては、粘液癌、充実型の浸潤性乳管癌、非浸潤癌、浸潤性小葉癌、悪性リンパ腫などがあげられます。超音波像が線維腺腫と言い切れないときは、細胞診などで確認します。
日常的に遭遇する頻度の高い線維腺腫ですが、多彩な臨床像を呈します。「たかがFA、されどFA 」です。