抗体薬物複合体(Antibody-drug conjugate: ADC)は、抗体に抗がん剤などの薬を付加した新しいタイプのがん治療薬です。がん細胞の表面に発現した特定の分子(タンパク質)に抗体が結合する性質を利用して、薬が直接がん細胞に到達し、がん細胞内に取り込まれて薬が遊離されて作用することで、正常な細胞への影響を避けつつ、効果的に抗腫瘍効果を発揮する仕組みです。ドラッグデリバリー、ターゲッティング療法といったイメージです。がん細胞にいかに特異的に有効に到達するか、がん細胞中でいかに薬を放出しやすくするかというを考慮して、開発されてきました。
乳がん領域では、HER2タンパクを標的としたT-DM1(カドサイラ)、トラスツズマブーデルクステカン(エンハーツ)が保険承認されています。その他、トリプルネガティブ乳がんにおいて80%以上に発現しているTrop2を標的分子とした抗TROP2抗体薬物複合体など、多くのADCが臨床開発されています。
使用できる新しい薬剤の登場によって、乳がんの治療成績が向上してきているのは事実です。さらに期待したいと思います。